もやし
それは、まぎれもなく、もやしなのであった。
ヒョロンと長く、髭も取られていない。
新鮮でもなければ、傷んでもいない、もやしが、ステンレスの流し台の上に1本だけ横たわっていた。
こ、こわい。
なぜなら、今、私の冷蔵庫の中にはもやしなど入っておらず、ここ何週間も、もやしを食べた記憶すらないからだ。
そんな私の気持ちなど、素知らぬ顔で、
どちらかというと、堂々とした雰囲気まで漂わせながら、横たわる1本のもやし。
そんなもやしを見つめながら、私は考えを張り巡らせていた。
吉田戦車のマンガみたい。
昔、なかったっけ?
食べても食べてもコンニャクがなくならないと思っていたら、“コンニャク男”というのがいて、密かにコンニャクを入れているっていう。
はっ!
も、もやし男。
もやし男の仕業なのか?
・・・・。
はっ!
いけない!
おもいのほか、もやしのことだけを考えてしまっていた。
もっと他に考えるべきことがあるだろっ、わたし。
と言いながら、ちぎったトイレットペーパーで1本のもやしを包みこむように取り、ゴミ箱へ捨てた。
もやし男が陰でほくそえんでいることなど、この時のわたしは知る由もなかった。
つづく。
と見せかけて、おわり。